相場格言集
米相場の時代から長く言い伝えられてきた「相場格言」は、投資の本質を表すものとして、今でも高い人気があります。ここでは、そうした格言をまとめました。
はじめに
株式投資に成功する不変の真理は「安いときに買って、高くなったら売る」ことである。しかし、いつ買えばいいのか、いつ売るべきなのか、その判断はなかなか付けにくいものだ。つまり、自分の判断が的確なものかどうかに確信が持てず、それが心理的な動揺を呼んで、手を下しかねることになる。
確信を得るためには、何よりも十分な調査と検討が必要であり、その基礎となる、精度、確度の高い情報を基に、客観的な分析を行う必要がある。
十分な検討を重ね、的確な判断が得られたら、あとは実際の行動を起こすのみである。ところが、この期に及んでもなお逡巡し、行動に踏みきれない人も多い。決断には、確かに勇気がいるものだ。が、勇気がなければ財産はつくれない。その勇気を生むもの――それは心構えである。心構えができているかいないかで、結果には大きな差が生じるものだ。
客観的な情報と投資家の勇断、この要素が2つながらに絡みあって相乗効果を挙げてこそ、株式投資での成功の道が開ける。むろん、その支えとなるのが心構えだ。
この心構えをつくってくれる“よき助言者”が、古来言い伝えられている相場の格言、金言の数々である。古人が終生かかって築いた境地のエッセンスが、そこにある。これを会得することによって、投資家は労せずして古人の水準に到達できるわけだ。古い言葉が必ずしも現代に通用するとは限らない。が、温故知新(故キヲ温ネテ新シキヲ知ル)ということもある。格言や金言の字間に、汲めどもつきぬ真理を見出し、それを現代に当てはめていくのは、あなたの仕事である。
しかも、これらの格言が生きているのは、決して相場の世界だけではない。そのまま人生の教えとして通じるものも多い。株式相場が人間心理の相剋の場であるといわれることからも、うなずけよう。沈着にして冷静、剛毅にして果断、旺盛な気力と動じない胆力、そして限りない知力を持ってことにあたれと、格言は教える。その言うところをマスターすれば、株式投資ばかりか人生においても、あなたは成功への道を歩むことができるだろう。
そこで本文に入る前に、まず格言を一つ紹介しておこう。
心は広く | 食細く | 朝は早く |
夜は早く | 気品は高く | 頭は低く |
色は薄く | 情けは深く | 仕掛手早く |
凡例
- 編集の便宜上、四編に区分したが、相互に関連し、重複する格言も多い。宜しくご判読願いたい。
- 引用した格言の出典(いずれも徳川時代の米相場に用いられた)は次のとおり。
- 売買出世車(ばいばいしゅっせぐるま)(延亭五年) 東白著
- 三猿金泉秘録(さんえんきんせんひろく)(宝暦五年)牛田権三郎著
- 八木虎之巻(はちぼくとらのまき)(宝暦六年)猛虎軒著
- 商家秘録(しょうかひろく)(明和八年) 大玄子著
- 八木豹之巻(はちぼくひょうのまき)(安永二年)猛虎軒著
- 宗久翁秘録(そうきゅうおうひろく)(寛政八年)本間宗久著
- 八木竜之巻(はちぼくりゅうのまき)(寛政十年)猛虎軒著
- 相庭高下伝(そうばこうげでん)(享和元年)玉江漁隠著
- 引用の格言は、常用漢字および現代かなづかいに書き改めた。
- 本文中の特殊な株式市場用語は、その都度注釈を付けた。また、引用文の難解と思われる言葉にも※を付して注釈を施した。